まことしやかな恋
すごいな。引っ掻き回した相手に懐いてる。嗣海がいたら図々しいと笑顔でブチ切れてるよ。優しい羽柴先生でよかったね。
「アンタの運命、俺だったらよかったのに」
軽い冗談めいた言葉に、薄らと本音が落ちる。
空中を彷徨う想いを拾うことはせず、私はぐしゃりと彼の頭を撫でた。
「私は、運命でも、運命じゃなくても、欲しいものは全部蹴散らして手に入れます」
「……」
「まことしやかなハートマークなんかいりません」
「さっすがァー」
無邪気な笑みを見せた鞍馬 大和は、立ち上がって伸びをする。どんよりと沈殿した憂いをなくした彼の顔は晴れやかだった。
これが本来の彼ならば、曇らないことを願うばかりだ。
「追い掛けんの?」
「はい」
「んー、あそ。俺も帰るわ」
「他人事なのが君らしいですね。喧嘩は見つからないように」
「だあーっ、流石にやんねーって」
「いい子。帰り道、気をつけてください」
頬を染めた彼は、心配もされるのも、褒められるのも、慣れてないらしい。
顔をぐるんと背け、踵を返して早歩きで去っていくため、私は慌てて呼び止める。
「まって」
「なーんだよ」
「絆創膏、どうぞ」
「は?」
強引に絆創膏を渡せば、虚をつかれた鞍馬 大和は目をまんまるにした。呆気にとられた顔で絆創膏を受け取った彼は数秒固まったが、すぐに眉を下げて笑う。
月の光に、満面の笑みが照らされた。
「あんがとー、羽柴センセイ」
報われない運命が、秋の夜に融解した。