まことしやかな恋

 すごいな。引っ掻き回した相手に懐いてる。嗣海がいたら図々しいと笑顔でブチ切れてるよ。優しい羽柴先生でよかったね。


「アンタの運命、俺だったらよかったのに」


 軽い冗談めいた言葉に、薄らと本音が落ちる。

 空中を彷徨う想いを拾うことはせず、私はぐしゃりと彼の頭を撫でた。


「私は、運命でも、運命じゃなくても、欲しいものは全部蹴散らして手に入れます」

「……」

「まことしやかなハートマークなんかいりません」

「さっすがァー」


 無邪気な笑みを見せた鞍馬 大和は、立ち上がって伸びをする。どんよりと沈殿した憂いをなくした彼の顔は晴れやかだった。

 これが本来の彼ならば、曇らないことを願うばかりだ。


「追い掛けんの?」

「はい」

「んー、あそ。俺も帰るわ」

「他人事なのが君らしいですね。喧嘩は見つからないように」

「だあーっ、流石にやんねーって」

「いい子。帰り道、気をつけてください」


 頬を染めた彼は、心配もされるのも、褒められるのも、慣れてないらしい。

 顔をぐるんと背け、踵を返して早歩きで去っていくため、私は慌てて呼び止める。


「まって」

「なーんだよ」

「絆創膏、どうぞ」

「は?」


 強引に絆創膏を渡せば、虚をつかれた鞍馬 大和は目をまんまるにした。呆気にとられた顔で絆創膏を受け取った彼は数秒固まったが、すぐに眉を下げて笑う。

 月の光に、満面の笑みが照らされた。


「あんがとー、羽柴センセイ」

 
 報われない運命が、秋の夜に融解した。
< 103 / 135 >

この作品をシェア

pagetop