まことしやかな恋
先にそれを視界に入れたのはマスターの方で、わずかに目を見開いたあと、ふわりと笑う。
彼の反応につられるように、嗣海はゆっくりと視線を滑らせ、それを視界に収める。──瞬間、息を呑んだ。
瞬きすら叶わず、無色の煌めきを瞳に映す。
「私と、結婚してくれませんか?」
その言葉で、ようやく、目が合った。
嗣海の色らしい深いサファイアが、私の耳朶の余白を埋めている。
驚きの連続で固まる嗣海と真剣な私を他所に、なにやら常連たちは盛り上がっていた。
「────は、結婚……?」
おろおろと困惑した声を漏らす男に、余裕なんてない。私はダイヤモンドの婚約指輪が収められた小箱の隣に、嗣海が買ったイエローダイヤモンドのピアスを置いて追い打ちをかけた。
「運命でも、運命じゃなくても、私は嗣海を選ぶよ。臆病で、性格が悪くて、面倒な女が欲しい、愛されたがりの人生が欲しい」
ロマンチストって、笑っていいよ。
時も場所も選んでられない、私の決死のプロポーズだから。
「雨宮 嗣海のために、私はまことしやかな運命を信じてあげるし、もし運命じゃないなら、一生かけてくだらない運命を否定してあげる」
「……葵子」
「これって、恋で、愛でしょ?」
そう告げれば、きらきらと、光の粒子を纏った迷子の瞳が、縋るように見つめてくる。
手を伸ばせば届く幸福さえも掴めない男に、私は仕方ないと笑って、キスをした。
「運命なんて言葉で逃げないで。捕まえるの大変なんだから」