まことしやかな恋

 艶然と微笑むマスターの発言のせいで、嗣海の機嫌が氷点下まで落ちた。紡がれた一音は低く、マスターを鋭く睨む。指先をぎゅっと掴まれた。


「……なにそれ、聞いてないけど」

「いや、マスターの冗談だよ。この人が本気なわけないじゃん。あと付き合う前の話だから……」

「えー、本気だったよ?」


 あー、もうこの人も性格悪いな! ややこしくなるから黙って!

 最低な空気にした張本人は、にこにこと笑みを絶やさない。対照的に、嗣海の笑みは消して真顔になっている。

 間違いなく、キレてる。


「高校生とキスして、マスターに誘われて、ねえどうなってんの?」

「全部付き合う前──……」

「帰るよ」

「ちょ、つぐみ、まって」


 強く掴まれた手首が、ひりついた。

 引き摺られる形でドアに向かう私は、このあと自分の身に起きる出来事を予知してマスターを睨む。

 ひらり、愉快犯の手が揺れた。
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