まことしやかな恋

 しかも、皆揃って、彼女に迷惑かけまいと静かに好意を持っている。騒いだりしない。現に、彼女が陸上をしていた話は生徒も教師も一度も話題に出さなかった。

 心の底から慕われ、気遣われている。

 自分と比較して、羨ましくなるほどだ。


「み〜んな、彼女が特別な存在であることを、自分だけが知っていると思ってるわけね」


 〝羽柴 葵子は、特別だ〟

 〝私だけが〟
 〝俺だけが〟

 〝特別だと、気づいている〟

 滑稽で笑いたくなるが、笑えない。俺も同じ。俺も特別だと思った。皆が知らない、自分だけが見つけた宝物だと思いたかった。

 観察を続ければ、自分がその他大勢と同じ穴の狢だと、容赦なく突きつけられてしまう。

 羽柴 葵子は、俺の存在など、気にも留めてないのに。


「(……やってらんないな)」


 急速に、なにかが冷めていく。

 もういいや、とその日を境に観察をやめた。








 ────はずだった。







「あ、煙草だ。煙草って美味しい? ライターどこだろ。ポケット見せて……あった。吸い方わかんないけどいっか。…………けほっ、こほ。……全然美味しくない。噎せたし。……口直しに飲み物代もらうね、君からは甘いもの代。それじゃあ」


 えー、どういうこと。

 路地裏で不良が気弱そうな学生をカツアゲしてると思ったら、羽柴 葵子が乱入して喧嘩して、呑気に煙草吸ったと思ったら噎せて、両方からカツアゲした?

 俺の頭、パーンって破裂しそう。
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