まことしやかな恋
セピア色で退屈だった人生が嘘のように、高彩度できらきらと輝いている。悪戯に過ごす二人だけの日々を誰にも知られたくなくて、渡したくなかった。
俺の人生は、葵子と出会うところからスタートしたんだと、本気で思った。
そんな執着じみた感情を抱えたまま、楽しい時間に明け暮れていたのだが、──転機は唐突に訪れた。
「ピッキングして侵入とか悪い子だなぁ〜」
旧多目的室。
教師も生徒も滅多に足を運ばない場所で、葵子はすやすやと寝ていた。陽だまりを見つけて丸くなる猫みたいに、褪せたソファーで小さくなっている。
ここは代々スペアの鍵を持っている先輩が、仲のいい後輩にあげて、サボり場所として活用している秘密の空き教室だ。今は俺がスペアの鍵の持ち主。葵子も入れないはずなのに、なぜかいる。
机には、形が歪んだヘアセットに使用するピン。自ずと答えは見えてくるね。
「俺以外に、ピッキングできること知られないようにね?」
「……」
「誰にも見つからないで。俺だけの特別でいて」
眠る彼女に、囁いた。
独占欲に塗れた感情は目も当てられない。
優しくふわふわな髪を撫でていれば、淡く色付いた唇に視線が誘われた。親指で、柔らかな唇になぞるように触れる。
「……キスしたいな」
無意識に零れた本音に、俺は驚く。
とっくに芽生えていた恋情を、この時、初めて自覚した。