まことしやかな恋
咄嗟に唇に触れていた指を引っ込める。だけど、起きる気配のない姿に邪な気持ちが湧いてしまい、静かに顔を近づけた。
唇が重なるまで、一センチ。
「……ん……」
寝返りを打とうとした葵子が顔を逸らした。
ふと、我に返る。この心地良い関係と信頼がなくなる行為をしようとしてしまった。もし葵子が目を覚まして寝込みを襲われかけたと知ったら、あっさり俺を見限って捨てるだろう。
告白したところで、振られるのも目に見えてる。燻る感情自体も、隠さないと。
「……俺のこと、好きになってくれるかな」
友人として想われるのでは足りない。俺も彼女に想われたい。
俺は時間を掛けて、葵子と〝友人〟になったんだから、同じように計画的に動いて、葵子の〝恋人〟を目指そう。じっくり感情を煮込んで、俺を意識させたらいい。
「(終わりたくないな……)」
はじまってもいないのに、捨てられる未来を想像して、嫌になってしまう。
面倒事が嫌いだ。自分本位な生き方で、己の欲求に忠実に、効率のいい方法を選んできた。
でも、葵子には、それができない。
傷つくのも、傷つけるのも、わかってるから。
「運命だったらいいのにね」
可愛い寝顔に、届くあてもない願いを語りかける。
運命のキスは、未遂に終わった。