まことしやかな恋

 無情にも月日は流れて、社会人。

 大人になっても関係性は変わらず。葵子が腐れ縁の仲だと言う度に、俺は拗らせた想いに雁字搦めになっていった。

 そして、ある日、耳にする。

 〝運命の人とキスすると、身体のどこかにハートマークが浮かぶ〟──という、まことしやかな噂を。


「(こんなしょうもない噂を信じて、踊らされて、振り回される人間がいるのか。……世紀末だな)」


 馬鹿な奴らもいたものだと鼻で笑った。

 で、数ヶ月後。俺と葵子は行きつけのバーで酒をしこたま飲み、ゲームに参加し、煽り、売り言葉に買い言葉でキスをした。

 アルコールの力は偉大だ。散々馬鹿にしたまことしやかな噂を忘れられず、藁にも縋る気分で、確かな下心も持って、キスできるかもしれない状況を作った。

 葵子はべらぼうに酔っていてキスした後もぼんやりしていたが、俺は唇が触れた瞬間、体内の全てのアルコールが蒸発して消え、キスできた事実に浮かれた。

 人生一浮かれて、期待して、寝落ちて。

 翌日、自分の心臓に淡いピンク色のハートマークを見つけた時、無神論者なのに神に感謝した。


「(ほらね、やっぱり、俺の運命は葵子だった)」


 鏡に映る自分の顔は、だらしなく緩んでいる。

 そうだ。葵子はどうなんだろう。この摩訶不思議なハートがあるか確認したい。運命なら、俺たちは上手くいく。

 ──なんてことはなく。


「……嗣海なんか、大っ嫌い」


 最悪の形で、運命を傷つけてしまった。

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