まことしやかな恋
勝機が巡ってきた夜。
俺の部屋に、葵子がアポなしでやってきた。酒の匂いを漂わせ、手の甲と口元を怪我した姿に驚いていれば、シャワーを浴びたいと言い出す。
普段の数倍無防備で、警戒心が解け、危なっかしい様子に、なにが起きてるのかと困惑した。
いくら隙だらけで、自由気ままな性格をしてるとはいえ、翌日も仕事がある深夜に酔った状態で連絡もなく来るのは変だ。しかも喧嘩の跡らしき傷もある。
なんか幼くて可愛いし、合鍵使ってくれちゃうし。
「(……どーしよ、緊張する)」
なんとなく空気感が違うことにドキドキした。
俺の心臓はやけに煩くて、珍しく甘えん坊な葵子が素直に足の間にすっぽりと収まって髪を乾かされている状況に夢見心地になる。
急に警戒心も距離感も皆無で甘える眠たげにゃんこに、忍耐力が試されるな〜、と我慢の数だけため息が零れた。
手を出さないために距離を取ったのに、葵子は俺を抱き枕にしてくっついてくる。
発語が溶けている葵子は、夢の中に半分浸かっているんだろう。明日にはいつも通りの距離感に戻るだろうから、せめて今の時間を堪能しようとふわふわな髪を撫でて甘やかしていれば──
「付き合お」
雨粒のように、ぽつりと零れ落ちた言葉に、思考が止まった。
俺といるために、俺の欲しいものをあげる。
そう答えた葵子の言葉に、素直に喜ぶことができない。恋人になりたかったはずなのに、何でだろう。好きって言われたかったのかな。
俺って、我儘だね。
「……好きになってもらえるように頑張るね、おやすみ」
恋人になった夜。
嬉しさと不安で綯い交ぜになった俺は眠れず、何時間も可愛い寝顔を眺めていた。