まことしやかな恋
言い逃れできないほどに、鼓動が乱れていた。
「どうしたの? 緊張なんかして」
「……べつに、緊張してない」
「あ、わかった。俺とキスしたの意識してるんだ?」
「違うけど」
「なら、何? 俺とのキスじゃなければ、他の何に意識を割いてるわけ?」
誘導尋問されている、とわかっていても、逃げ道が見当たらないので気分は最低最悪だ。
ゆるりと頬を持ち上げて、私に身体ごと視線を向けている男は、きっと自分の質問への回答がもらえるまで諦めない。そういう奴だ。
さて、反撃の手立ては?
「そっちこそ、今日特に飲む気分でもないくせに、わざわざ会う予定取り付けたのは何で?」
視界に入った炭酸が弾けるグラスは、まだ手がつけられていない。ここぞとばかりに指摘すれば、嗣海は笑顔のまま固まった。
「日が経てば気まずくなるからでしょ。意識してんのはどっち」
「……」
表情は動いてないけど、不服そう。
勝敗が決まり、マスターは優雅に微笑みながら嗣海の前に湯気の立つパスタを置いた。
「仲良くね。昨日みたいなこと、今日は駄目だよ」
「「……」」
「俺としても顔馴染みのお客さんが減るのは困るから程々に」
仲が良くても、店と客。
遠回しに、柔らかく、昨日と同じ粗相をしたら出禁にするぞと脅され、隣の男は大人しく身体の向きを変えた。マスターの性格からして、注意を無視したら本気で出禁にされる。