まことしやかな恋

 固く結ばれていた不安が、しゅるしゅると解けていく。不安の糸が緩み、自然と口許も緩んでしまった。

 嬉しいやら、恥ずかしいやら、醜態ばかり晒して顔を上げられない。コアラみたいに葵子にくっついて熱を帯びていく顔を埋めた。

 背後の飲んだくれどもが盛り上がっている。好きに飲んで今日の記憶を全部失ってしまえ。

 そしてどうやら、俺がバーに来てると、葵子はマスターから連絡をもらったらしい。まあ大体予想通りだけど、なんか今回のマスター、葵子に肩入れしてる気がするな。

 後腐れを残さないためお祝いのシャンパンを開けさせようとする食えない男に、余裕を装って、静かに了承した。

 お酒も料理も上手く、距離感もいい。マスターの存在を含めて、このバーが好きだった。

 特に相手に気遣わせない配慮、線引きを間違えないところを気に入っていたのに……。


「葵子ちゃん。俺にベッドに誘われたこと、嗣海くんに話した?」


 妖美な微笑を浮かべたまま、有り得ない発言をする男に、一瞬にして敵意が芽生えた。

 アシストのつもりでも最悪だ。葵子も葵子で隙だらけだし、くそ生意気な高校生にも狙われてたってのに警戒心が甘すぎる。

 ほのぼの笑う男を睨みつけ、俺は迂闊な恋人を引き摺ってバーを出た。

 それから、家に連れ帰り、欲のままに可愛い恋人を組み敷いてしまった。
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