まことしやかな恋
茜色の夕日が図書室を染める。
拝読中の本を閉じると、カラスが帰ろうと鳴いていた。校内に響き渡るチャイムが警鐘のように聞こえて肌がざわつく。その予兆は、杞憂でおわらなかった。
「──あ、見つけた」
ひどく嬉しそうな、あまい声。
誰なのか、声だけ気づいてしまった。
音を立てずに図書室のドアを開け、後ろ手に閉めた相手は、──雨宮 嗣海。
彼の言葉と、誰もいない図書室でふたりきりになってしまっている状況に、背筋がぞわりと粟立った。
「どうしたの?」
「……」
「もしかして、俺を警戒してる?」
碌に話したこともない人間が、自分の姿を捉えてはっきりと「見つけた」と口にした。それは相手が自分を探していた、機会を窺っていた、と同義だ。
警戒しないわけがない。
「(……図書委員がインフルだからって、代わりに引き受けるんじゃなかった)」
軽率に承諾したことへの後悔が止まらない。
とりあえず、一刻も早く帰ろうと席を立った。なるべく相手に刺激を与えないように、平静を装って鞄を肩にかける。
「図書室、鍵かけるから出てください」
そう淡々と告げても、雨宮 嗣海は動かない。
人を虜にする愛想のいい笑みを、寸分の狂いもなく整った見目麗しい顔貌に貼り付けている。