まことしやかな恋

 図書室のドアを通せんぼするように塞ぐ姿に、逃げられないことを悟った。もう既に目をつけられたのなら、今日逃げたところで明日捕まる。馬鹿な真似はよそう。


「……あ、諦めてくれた?」

「……性格悪いって言われない?」

「俺は優しいよ」

「優しい人間は、自分を優しい人間って言わない」


 吹っ切れた態度で返せば、雨宮 嗣海は楽しそうに口角を上げて、私の方へ近寄ってきた。

 そのまま、私が座っていた椅子に腰を下ろす。足を組む動作すら優雅で、可愛くなるはずの上目遣いは強烈なまでに鋭い。


「俺の名前、知ってるよね?」


 さも当たり前のように問いかけてくる傲慢な口ぶりは、不思議なことな今までの気味の悪さを払拭した。

 飄々としてるのは変わりないけど、今の方がしっくりくる。


「雨宮 嗣海」

「正解」


 鋭さを控えつつ、目元が甘く緩んだ。

 今まで遠目に胡散臭い笑顔を見ていたけど、たしかに雨宮 嗣海は顔がいい。適当にシャッターを切っても、たぶん様になる。


「ねえ、羽柴さん」

「うざ」

「……葵子?」

「はい」

「名前呼び、許すんだ」


 水滴のようにポツリと呟かれた声。

 ふにゃりとした表情で、子どもみたいだ。
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