まことしやかな恋
目の前で行われている暴挙を止めたいが、気まずさを拗らせた一ヶ月の空白期間に足止めされた。声の掛け方に悩んでしまう。
自分はこんなにも繊細な人間だっただろうか。
嗣海に視線を向けると、合わなかった。邪悪さが隠しきれていない笑みは珍しい。わかりやすく苛立っている。
「クビになりたい?」
「イテ、イテテ! 暴力反対っす!」
「忠告したのに懲りないね。次はないよ」
「イダァーッ! わかりましたってば! 頭もげる頭もげる!」
頭蓋骨粉砕、もしくは首が千切れるまで続けるかもしれないと危惧したが、意外とあっさり嗣海は手を放した。
憤慨した様子で「パワハラー!」と叫んだ従業員が高速で嗣海と距離を取る。英断だ。
「俺と話すだけで嫉妬するくらいなら仲直りすることっすね!」
「……」
「……」
そして、よくわからない捨て台詞を吐いて慌ただしく帰っていった。
緩衝材を担ってくれていた彼がいなくなり、私と嗣海の間には妙な空気が流れる。お喋りな口から軽口が飛んでこないのが、いっそう気まずさを増幅させた。
「……中、入ったら?」
「……」
平素と変わらぬ態度の嗣海に促され、閉院後の整骨院の扉をくぐる。
平然としている横顔から察するに、私だけが沈黙を持て余しているらしい。