まことしやかな恋
答えが身近にあったことに、どこか呆然としていれば、くすくすと笑うマスターが「よかったね」と一杯差し出してくる。
え、テキーラ? 景気づけのつもり?
目の前に置かれたショットグラスに、両頬が引き攣りそうになった。当たり前のように自分の分もあるのがアルコホリックのマスターらしい。
「大人の成長に乾杯」
「……今日は負けを認めます。乾杯」
今日どころか、未来永劫勝てる日は来ないだろうけど、悔しいので強がっておく。
指先ほどのグラスになみなみ注がれた琥珀色の液体を仰いだ。途端、喉が焼けそうな程に熱くなる。なんでチェイサーがないんだ。アル中め。
「そんな恨めしい目で見ないで。ほら、美味しいアイスあげる」
「私をアイスで懐柔しようとするのよくない」
「召し上がれ」
「いただきます」
手のひらで、ころんころん踊らされている。
かなり不服だが、冷えたアイスが美味しいので上手く踊ってあげることにした。
「マスターの運命の人は、未妃さんでしょうね」
甘いバニラアイスが舌を冷やす。
口から零れ落ちた言葉に他意はない。目の前で妖艶に微笑む男が、唯一、明確に態度を変える相手の名前を出しただけ。
けど、マスターは徐ろに冷たい光を瞳に宿した。
鋭い双眸で、線を引く。
「そうだね」
同意する声に、温かみはない。
「俺も未妃も恋人のためには死ねないけど、互いのためには死ねるからね」
溶けたアイスがどろりと崩れた。