まことしやかな恋
この状況で暢気に比較するのも変だけど、嗣海よりマスターの方が拗らせてそうだ。薄らと笑みに滲む嫌悪感は、私宛てではない。でも含まれてはいる。
「はじめて人間らしいとこ見た」
「……」
「私はわりと好きですよ、二人の名前がつかない関係性が」
形のないアイスを掬い、素直な本心をそのまま口にする。マスターは虚をつかれたように目を丸くしていた。
独占欲も、嫉妬心も、愛もあるけど、──恋ではない。
それでいいと思う。
「……」
黙り込んだマスターが、目の焦点をうろうろ彷徨わせている。残りのアイスを食べながら少し可愛いかもと眺めていると、迷子の瞳と目が合った。
「……俺と寝てみる?」
「……残念、このあと性悪の家に突撃しにいく予定」
「あれ〜、そっか」
結構、本気で誘われた。
考え方も感じ方も人それぞれだけど、マスターの思考回路は摩訶不思議だ。この人もNASAに送った方がいい。ヒューストンまで飛び立ってもらおう。
「もう行くの?」
「うん、ご馳走様」
「今度は二人でおいでね」
「ありがと。じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
手を振って、バーを出る。
秋の夜風を浴びながら、私は酔いを醒ますように会いたい男の家まで歩き出した。