まことしやかな恋
服を脱いで浴室に入り、熱いシャワーを頭から浴びる。傷口に染みて痛かったが、出来事を全て水に流したかったから我慢した。
身体や髪を洗い流し、さっぱりした気分で浴室を出ると、ちょこんとお泊まりグッズが一式置いてある。
互いの家を何度も行き来するうち、帰るのが億劫になって泊まることが増えた結果、最低限の荷物を置いておくようになったのだ。
タオルで雑に髪の水気を取り、スキンケアを済ませてリビングに行く。数えきれないくらい来たことある部屋の真ん中で、嗣海は「えぇ〜……」と当惑した声を零した。
「ん」
「はいはい、いいよ。ドライヤーしろってことね。してあげるから、まずは手当てだよ。なんで酔うと幼児退行しちゃうかなぁ〜」
「幼児退行してない」
「うんうん、してないね。わがままで甘えん坊になるだけだね。ほら、俺の足の間に座って」
「ん」
「素直な葵子、心臓に悪いなぁ……」
ため息の多い嗣海の足の間に収まり、されるがままに手当てを受ける。背後からだとやりづらいはずなのに、嗣海は器用に手の甲を処置した。
「口元は?」
「ん」
「……目を瞑る必要ないんだけど。誘われてる?」
「ねむ」
「なるほど、眠いのか」
ぺたり。口元に絆創膏が貼られる。
振り向いた身体を戻すと、ドライヤーの熱風と一緒に、優しい手つきで猫っ毛の髪に指を通された。子猫でも撫でてるような、慎重な指先に段々と瞼が落ちてくる。