まことしやかな恋

 静まり返った寝室で、嗣海が息を止める。微かに目を見開いて、素で戸惑っていた。次第に、氷が溶けるように表情が動く。

 瞬きを何度も繰り返して、そわそわと瞳を泳がせる姿に可愛さを覚えた。


「急に、付き合うって、なんで……」


 こっそりと心音を聴こうとしていたが、不意に頭上から言葉が降ってきたので、思いの丈をぶつける。


「友達として傍にいられないなら、恋人になってもいいと思うくらいには絆されてるから。嗣海といるために、嗣海の欲しいものをあげる」

「……妥協?」

「そうとも言うし、そうでもない」


 珍しく卑屈になってる嗣海は、ペラペラ回る口を横に結んで眉を寄せた。

 マスターの言った通り、嗣海は臆病だ。

 捨てられたり、振られたり、終わりを想像してばかりだから、人に執着しない。否、執着しないふりをしてる。

 そのくせ、自分が傷つかないようにしか愛せないのに、愛されたがり。

 こんな面倒な男、私以外扱えないでしょ。


「葵子、俺と付き合っていいの?」

「私、告白したよね」

「うん」

「つまり、そういうこと。おやすみ」


 眠気が、限界。

 性格の悪い恋人の腕の中で、眠りに落ちた。
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