まことしやかな恋
「怪我をしたのは、あなたが抱えている女子生徒ですか?」
「そ、バレーしてたら俺の打ったボールが顔面にぶつかって鼻血。マジごめん」
「だ、だいじょうぶ……」
タオルで鼻を押さえている女子生徒は、恥じるように男子生徒から視線を逸らす。謝罪は軽いが、横抱きにして走ってくるあたり、男子生徒もいい子なのだろう。
残りの数人の女子生徒は、鼻血を出した子の友人らしい。ふたりを見守る眼差しで、なんとなく矢印の向きを察した。
「鼻血ですね。頭を少し前に傾けて、鼻の付け根を押さえてください。ティッシュは軽く鼻に詰めれますか?」
「は、はい」
好きな人の前で、鼻にティッシュを詰めるのが恥ずかしいのか、今は椅子に座る彼女がどんどん俯いていく。
なんとも、わかりやすい態度だ。
元気溌剌という単語が似合う男子生徒が、物珍しい顔で保健室を徘徊し始める。顔を赤く染める女子生徒の様子に気づいて、友人たちは小声で何やらひそひそ話していた。
「しばちゃん、俺らまだいていいー?」
「……彼女の鼻血が止まり次第、一緒にクラスに戻るように」
「やった! しばちゃんさんきゅー」
「しばちゃんではなく、羽柴先生です」
「んえ、今更?」
今更も何も。
ここに赴任されてから〝しばちゃん〟と呼ばれ続けているが、私は許可していない。いつの間にか愛称を付けられていただけの話。