まことしやかな恋
なんでも器用に熟す男に、冷蔵庫に材料が揃っていたのか、なんて野暮なことは聞かない。
鏡に映る自分を最低限整えて、あらためてテーブルの前に立った。白湯がある。気が利きすぎてるのも怖いな。嗣海のことだから、なにか企んでそう。
「……」
「恋人のために頑張ったのに、ご不満?」
「いや、別に。いただきます」
甘い。空気が甘い。
私が黙々と食べているのを、嗣海は慈愛に満ちた眼差しで見守ってくる。食べづらいな……。
揶揄するような〝恋人のために〟だったけど、嗣海の口から恋人という単語が聞き慣れない。自分から交際をスタートさせたくせに、背中がむず痒くてそわそわする。
「美味しい?」
「うん、美味しい。ありがとう」
「俺の家に来てくれたら、いつでも食べたいもの作ってあげるよ」
「そうなんだ」
「どう? よくない?」
「私の家でも作ってよ」
「そうじゃな〜い……」
ぺたんと嗣海は項垂れてしまった。不服そうな頬の膨らみ具合に、私は箸を持ったまま首を傾げる。
恋人には尽くすタイプだから、自分の家に来たらご飯は作るってことじゃないの?
だし巻き玉子に舌鼓を打ちながら噛み合ってない意図を探ろうとするも、嗣海は頬杖をついた姿勢で口を噤んでしまい、結局わからずじまいだった。