まことしやかな恋
私好みに味付けされた朝食を平らげ、流石に食器くらいは洗わせてもらおうとしたが、手が荒れるだのなんだの言う嗣海に颯爽と阻まれてしまう。
今まで私の手荒れなんて気にしたことないくせに、どういう風の吹き回しだ。
なんの役割も与えられず、ぼーっと泡だらけの手の嗣海を見下ろしていると、混じり気のない笑い声が隣から聞こえた。
「居心地悪い?」
「……いや」
手持ち無沙汰なだけで、居心地が悪いわけではないから首を横に振る。楽できるのは好きだけど、朝から至れり尽くせりで落ち着かない。
でも、それを言葉にするのは憚られた。もし恋人扱いしてるんだと言われたら、どう反応を返せばいいかわからないから。
自分で付き合おうって言ったくせにね。
「俺の隣にいるだけで、な〜んにもしてない葵子見てるの気分いいな」
「私を困らせて楽しい?」
「うん、楽しすぎて踊り出したい気分だよ」
「そう。今日も性格悪くて安心した」
踊り出してはないけど、ご機嫌に鼻歌は歌っている。
いつなんどきも飄々として掴みどころのない男が露骨に浮かれている様子は見慣れない。起床後、何度も訝しんで眉を寄せている額が疲れてきてしまった。
「仕事行く準備しないの? 葵子の服はクローゼットの中にあるよ」
「……え?」
不可思議な言動は続き、私の家に一度戻ろうかと考えていると、見透かしたように嗣海に止められた。