まことしやかな恋

 マスターにも似たようなことを言われたが、稀有な美貌と色気を放つ人たちに指摘されても、なんだか腑に落ちない。

 雲の上で暮らしてる羽を持つ人間に「君も空を飛べるよ」と言われているみたいだ。現実味がない。

 じとっと目を細めて睨めば、嗣海は見えてきた駅舎の方に視線を流し、急に話の角度を変えた。

 
「葵子って怒った顔、ポメラニアンみたい」

「ポメ……?」


 一体全体、どこにポメラニアン要素が?

 生まれてこの方、ポメラニアンっぽいとは言われたことがない。猫っぽいはある。

 理由を述べよ、と鋭く視線を向けると、くすっと笑った嗣海が口元を手で覆った。わざとらしくていやらしい。


「怒ると下向いて睨むでしょ。でも驚くとお目目まんまるになるところがキュートなポメっぽいかな」

「私、猫目だけど」

「そうなんだけどね。もふもふだし」

「地球上にいるもふもふの生き物を全て私だと思ってそう」

「否定はできないかな」


 阿呆みたいな会話をしてるうちに、駅に到着した。恋人になったばかりのぎこちなさは秋の空気に溶けて消え、今まで通りの距離感に戻っていたことに遅れて気づく。

 改札へ続く階段を下りる。私たちは乗る路線が違うため、改札前でお別れだ。

 じゃあ、と見送る嗣海に告げるも、本人は鷹揚な表情で立ち止まっている。首を傾げて言葉を待てば、映画のワンシーンのような動作で顔の近くの髪を掬われた。


「合鍵、今日も使って」


 色香に包まれた音色が、囁く。

 定期をかざしてホームに向かうまで、私は赤くなった耳を隠すことに必死だった。
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