まことしやかな恋
学校に着き、朝の職員会議が始まる頃には、気持ちはすっかり仕事に切り替わっていた。
「同一クラスで発熱欠席が続いているので、インフルエンザの可能性があります。三組の担任の先生は、一限前に登校している生徒の体調確認をお願いします。発熱や強い倦怠感を訴える生徒がいれば、無理をさせず早退を検討してください」
僅かに張り詰めた空気が職員室に走る。
十月半ば。インフルエンザが出始める時期に体調不良が出たことは悩ましい事案だ。
三年生は受験を控えている。この時期の感染症は単なる体調不良では済まない。学習の遅れ、総合型選抜や推薦の出願。一つ綻べば、連鎖的に響く。
「他のクラスも換気の徹底と手洗い指導を改めてお願いします」
短い沈黙のあと、教頭が頷いて会議を進めた。どこか悩ましげな表情の教師たちが散らばっていく。
「毎年ですけど、参りますよねぇ」
「どれだけ対策を練っても感染者は少なからず出てしまうので仕方ないです。渡辺先生も気をつけてくださいね」
保健室に戻りながら、頭の中でやるべきことを順番に並べる。欠席状況の集計、保健だよりの緊急版を出すかどうか。流行の芽は早いうちに摘むに越したことはない。
うがい手洗いの励行を呼びかけるポスターを保健室の前に貼り直して、手指消毒液を補充した。
午前中、体調不良者が数人出たが、想定よりも保健室は穏やかそのもの。生理痛の子と足を捻った子が来て以降、ドアは開いていない。
そして、正午を過ぎたお昼の時間。
彼は、やって来た。
──「センセ、昨日ぶり」