まことしやかな恋
現れたのは昨日の不良少年。
保健室のドアをノックもせず、不遜な態度で入室してきた生徒は、お弁当を頬張っていた私の対面に腰を下ろした。
癖のない黒髪を目元で揺らし、大人を舐め腐った態度で机に頬杖をつき、にやにやと口角を吊り上げた。
「保健室は元気な生徒が遊びに来る場所ではないので出ていくように」
「誰もいねーじゃん?」
「……」
「あと、俺は怪我人ね? シバちゃん」
「……羽柴先生と呼ぶように」
喉元までせり上がってきた〝クソガキ〟を留めて、淡々と呼び方を直すよう注意する。どうせ聞かないだろうが。
この手のクソガキは反応を見せると喜ぶので、あしらうか無視するかの二択だ。
お弁当を黙々と食べ進めながら、教室に戻る気配のない生徒をちらりと一瞥した。傷の手当てはほとんどしていないのに、首元に不自然に大きい絆創膏が貼られているのが少し気になった。
「気になる?」
「いえ」
ゆるりと挑発的に笑う生徒に、決して感情を悟られないよう静かに目を瞑る。
朝食に出てきたのとは違う甘い卵焼き、美味しいな。
頑なに視線を向けないで咀嚼していれば、前のめりになっていた彼は怠そうに椅子の背に凭れて笑顔を消した。
冷たい双眸には、微かに侮蔑が滲んでる気がして、どうするべきか思案する。
逡巡し、箸を置いた。