まことしやかな恋
態度がいいとは言えないが、大人しく手当てされているのを見るに、鞍馬 大和という名の彼は常日頃から荒れているわけではない。
じっと観察するみたいに視線をぶつけてくる彼に昨日の喧嘩の経緯を聞くことにした。
「喧嘩の原因は?」
「知んねーよ。絡んできたのはあっち、俺はケンカを買っただけ」
「クラスメイトの彼は?」
「塾の帰りだってよ。俺は家がちけーから暇潰しにぶらついてた」
「なるほど」
はぐらかされるかと思ったが、私の質問に鞍馬 大和は誤魔化さず答えた。
嘘をついてる様子はない。
他に傷はあるか聞くと、ないと返されたので、最後、口元の傷に絆創膏を貼る。メイクで隠した同じ場所がじんっと疼いた。
「……なぁ、聞きてーことあんだけど」
「なんでしょう」
「昨日のケンカ、素人の動きじゃなかったけど元ヤン?」
「違います」
「じゃあ、何?」
「教えません」
ぴしゃり、言い切れば不満そうに口元が歪む。
私が持ち出した話だが、これ以上は蒸し返したくない。双方、得をしないのだから忘れてしまうのが一番だ。
黙ると、彼は舌打ちを零す。けれど、すぐにニヤリと口の端を擡げて顔を覗き込んできた。
「青少年健全育成条例違反だっけ?」
「……っ」
「あー、葵子ちゃんセンセーとキスしたって言い触らそっかな」
今度は私が舌打ちを零す番だった。
悔しいことに、私の口元を見てきた鞍馬 大和のそれは脅しとして十分すぎた。無傷ならまだしも、口元の傷が一致してるせいで信憑性が出てしまう。
未成年に追い詰められるなんて、厄日だな。