まことしやかな恋
大通りを一本折れると喧騒が一気に遠のく。狭い路地に入り込み、落ち葉で色付いた細道を数分歩き続けていると、控えめな佇まいの一軒家が見えた。
「……ここって……」
こじんまりとした隠れ家らしいお店の外観に、見覚えがある。
石造りの壁に蔦が這い、【ボヌール】と刻まれた小さな看板が木の格子戸の脇に掛かっていた。入口に立てかけられた黒板には、本日のランチメニューが白いチョークで丁寧に書き添えられている。
「気になるって前に言ってたでしょ?」
「……よく、覚えてたね」
「俺、記憶力いいからさ。運良くランチの予約取れたから丁度いいかなって」
事も無げに嗣海は言うけれど、このお店は席数も少なくてランチは週末のみ。予約は困難だったはずだ。
なんてことない発言を覚えていてくれたことを嬉しく思いながら、スマートに手を引く男に促されて段差を上がる。
白く塗装された木製のドアは縦長のパネルを組んだクラシカルな造りで、中央には小さなガラス窓が嵌め込まれていた。その向こうに橙色の灯りが滲んでいる。
嗣海がノブに手をかけると、蝶番が微かに鳴いた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から小柄な女性が顔を覗かせる。
予約していた旨を伝えると、穏やかな笑みで奥の席へと案内された。