まことしやかな恋
店内は落ち着いた空間だった。白い漆喰の壁と、アンティークの木製家具が馴染んでいる。テーブルはほんの数卓。乾燥ハーブとバターの混ざり合った香りが鼻腔を擽った。
このビストロはオードブルとメインを組み合わせるシンプルな構成らしい。メインは互いに一番人気の国産牛のビーフハンバーグを選び、オードブルは嗣海がスモークサーモン、私はキッシュを頼んだ。
「自家製パンだって」
「葵子はパン好きだよね。高校の頃からパン屋さん見つけると吸い込まれるように入店するし」
「パン屋さんってテンション上がらない?」
「んー、よくわかんないけど葵子が楽しそうなのは見てて飽きないかな」
返答が斜め上で反応しづらいけど、私と違って嗣海がパンでテンション左右されないことはわかった。
焼き立てのパンの香ばしい匂いとか、小麦とバターの甘い匂いとか、自然と心がやわらぐと思うんだけどな。
「かわいいね」
脳内でパンの良さを垂れ流していると、蕩けるような微笑を向けられたまま酷く甘い声で呟かれ、不意打ちすぎる攻撃に固まってしまう。
赤くなる顔をごまかそうと咄嗟に話題を変えた。
「……てか、なんでわざわざ目的地を待ち合わせ場所にしたの? 週末で混んでるし、最寄り駅で合流して一緒に電車乗ればよかったじゃん」
遠回しに早く合流していればナンパされなかったのにと不満をぶつけると、余裕を崩さない男が訳ありげに笑みを深める。
反論の矢が放たれる前に、負けを悟った。
「起きて準備して向かってる道中も電車の中もず~っと、頭の中が俺でいっぱいだったでしょ?」
……こんなの、ズルだ。