まことしやかな恋
たしかに会うまでの間、嗣海のことばかり考えていた。それは相手の狙い通りに思考を支配されていたとも言えるわけで。
きっと、手の内を明かすのも含めて、嗣海の術中なのだろう。
「ほっぺあか~」
「うるさい」
「照れた顔も可愛いね」
「……」
視線を逸らす私とは対照的に、嗣海はご機嫌に頬杖をついて愛おしむような眼差しを向けてくる。白ワインを運んできた女性にも微笑ましげな表情をされ、さらに羞恥心が募った。
薄手のグラスの中で澄んだ淡い黄金色が揺れる。指でステムを摘み、未だに口元を弓なりにしている性格の悪い恋人の前に無言でグラスを差し出した。
「乾杯」
繊細なクリスタルグラスが触れ合い、細く澄んだ音が響く。
休日の昼からワインを飲むなんて贅沢だ。冷えた白ワインの柔らかな酸味と果実の香りに背徳感を感じながら味わった。
色鮮やかなサラダやきのこのポタージュ、選んだオードブルに舌鼓を打ちながら他愛もない会話を広げる。
しばらくして、メインが運ばれてきた。
赤ワインソースで煮込まれたハンバーグは、馥郁とした香りを立ちのぼらせる。艶やかなソースが表面を覆い、傍らには自家製パンが添えられていた。
ナイフを入れると肉汁が溢れ、滲み出す。口元に運んでひと口食べた瞬間、美味しさに目を見開いた。
「……美味しい……」
「ふふ、かわいい。美味しいね」
ハンバーグも自家製パンも期待以上の美味しさで、幸せに包まれる。
「……連れてきてくれて、ありがとう」
──どういたしまして。
そう紡がれた声は、目眩がしそうなほどに優しかった。