まことしやかな恋
大満足なランチを終えたあと、私たちは近くのアートギャラリーに足を運んだ。よくバーで会う写真家の方が個展を開催していることを思い出したからだ。
受付のテーブルで、整然と並べられたリーフレットを手に取る。黒インクで刷られた文字に目を通した。
【MIRROR】──シンプルな展示タイトル。
説明は殆どなく、たった一言。モノクロが目を引く。
「こんな好立地なとこで個展開けるって……」
「成り立つだけの集客があるんだね」
「私たちの一個下って言ってなかった?」
「覚えてないなぁ」
どうしてこの男は興味がないことをすぐに忘れてしまうんだろう。淡々とした声色から察するに、聞いた覚えすらなさそうだ。
休日にしても人が多く、私と嗣海は小声で会話しながら左回りに灰色の壁面に等間隔に並んだ写真を見ていく。音楽が流れていない打ちっぱなしのコンクリートに足音が響いた。
展示されている作品は、雨が多かった。濡れた路面に滲む光、閉じられた店先、人気のない路地。そして、時折、彫刻めいた美しいブルーの瞳の男が映り込んでいる。危うさと妙な引力が潜んでいるキケンな野良猫みたいだ。
引き寄せられるように写真に釘付けになっていれば、ふっと目元を手のひらで隠される。
「俺以外の男に目移りしないで」
「写真だよ」
「写真でも、ダメだよ」
じゃあもう、何も見れないじゃん。
そう言いたいのに、不貞腐れている男が可愛くて甘やかしたくなってしまう。