まことしやかな恋
アートギャラリーを出て、ケヤキ並木が続く道を手を繋いで歩く。ブティックがある通りに戻ってくると往来には明らかに人が増えていた。
無数の視線が光線のように刺さっているのに、隣を歩いている男は飄々としている。こんな風に注目されるのは慣れていると、いたく涼しげな横顔だ。
「……あ、ここ入ろ」
視線のノイズを爽やかに躱す男が足を向けた先は、誰もが知るハイブランドのジュエリーショップ。
ふらりと立ち寄るには敷居が高い。店の中で待ち構えている店員が戦闘員に見えて、瑣末なことにこだわらない私でも気圧されてしまう。
「ちょ、待って」
「え~、なんで尻込みしてるの。別に何回も来たことあるでしょう?」
「いや、来たことはあるけど慣れてはないから。うちは両親ともに装飾品は興味なくて、こういう仰々しい空気感苦手なの」
母はスポーツ選手だったから、煌びやかな装飾品よりも機能性重視でものを選んでいた。
父は一級建築士という仕事柄、家具や美術品にはこだわりがあったけど、服や装飾品は知人に全任せで頼むくらい興味がない。
「あ〜、葵子の家ってそんな感じだったね。お泊まりしたの懐かしいな」
「懐かしんでないで、待ってってば」
「俺のとこは見栄っ張り……というか人に値踏みされることが前提の家庭だったから、着飾ること慣れてるんだよね」
「うん、知ってる。……って、そうじゃなくて、自分が慣れてるからって流れるように入店しないでくれる!?」
ぎぎぎ、と病院を嫌がる犬みたいに踏ん張って抵抗してみるも、力の差であえなく撃沈。
戦闘員だらけのジュエリーショップに足を踏み入れてしまった。