Oh! My リトルマーメイド

動き出す歯車

「マジ!? エリック・スンと幼馴染なの!」
「有名なの?」
 海帆(みほ)の質問に、吉岡明莉(よしおかあかり)は興奮した様子で身を乗り出した。
「有名だよ! ほらちょっと前に日本でも話題になったドラマがあったじゃん。『八月、君がいた』てやつ! あれでヒロインに片思いする大学生の役をやって、一気に知名度が上がったんだよ!」
 そういやそんなドラマあったな。去年だっけ。
 ロッカールームで制服に着替えながら、去年の夏に明莉が夢中になってドラマのあらすじを語っていたことを思い出した。
 確か台湾女子と日本男子のラブロマンスもので、日本の人気俳優が出演したから話題になってたのだ。
「あたし、あれでエリック好きになって台湾ドラマにハマったんだよね。ねえ、幼馴染みってことは今後会うかもしれないんでしょ? サインとか貰えない?」
「無理でしょ、そんな有名な俳優さんだったら。幼馴染みって言ったって五歳で別れてから今まで会ってないし。私以上に会う時間ないと思うよ、向こうの方が」
「え、会いに行かないの⁉ そんなすごい縁があるのに!」
 念入りにマスカラを塗りながら、明莉が信じられないと声をあげる。
 ロッカールームには海帆と明莉以外誰もいないから、自然と声が大きくなる。
「あたしなら仕事辞めてでも会いに行くのに!」
「だから無理だってば、普通に。ただでさえ人手不足なんだから、休みなんて取れない」
 昨夜、母親に言ったのとまるで同じセリフを海帆は口にする。
 写真を送った後、メグさんからは「会いたい、いつ台湾に来られる?」とメッセージが立て続けに来たが、しばらくは時間が取れないとしか答えられなかった。
 身支度を整え、明莉ほどではないが軽くメイクを直して、海帆はロッカーのドアを閉めた。
「さ、行くよ。引き継ぎの時間」
「はいはい待って」
 夜勤業務のスタッフとの引き継ぎを終え、チェックアウトと宿泊予約の確認をしているところへ、フロントマネージャーから声がかかった。
「橘、ちょっといいか」
「はい」
 なんだろう、と思いながら、海帆はマネージャーの後に続いてバックヤードへ入った。

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