第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 千咲が思わず頬を染めると、澄春がふっと表情を和らげた。

「わかった」

 彼は納得してくれたのか、美しい所作で食事をはじめる。

 しばらくすると、ナイフとフォークを置き千咲のために手ずから紅茶を淹れてくれた。

「あ、ありがとうございます。私がやるべきでした」

 自分の気の利かなさが情けなくなる。

「いいんだ。今日は疲れただろうから、リラックスしてくれ」

 澄春は淡々とした口ぶりながらも、柔らかな表情だ。

(やっぱり優しい……)

「ありがとうございます……あの、私の振る舞いは大丈夫でしたか?」
「堂々としていた」

(それは大丈夫だってことかな?)

 澄春は言葉が少ない人だ。慣れてきたけれど、千咲は彼の言葉を正しく受け取っているのか、まだ自信がない。

「大丈夫だったってことですか?」
「ああ」
「……それならよかったです」

 安心したら食欲が復活してきた。千咲は色とりどりの皿に箸を伸ばす。

「うう……めちゃくちゃ美味しいです」
「それならよかった」

 澄春が口角を上げる。

(優しい笑顔?)

 それは一瞬の変化だったけれど、日頃表情の乏しい彼の貴重な笑顔だ。その機会に接する度に、千咲は胸が高鳴るのを感じる。
 もっと見たい、もっと笑ってほしいと思うのだ。
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