第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
「……失礼します」

 結局千咲は凛華に言われっぱなしのまま、すごすご逃げ出すことしかできなかった。

 情けないけれど反論ができなかった。凛華はそんな千咲を馬鹿にしたように笑って見送った。

 彼女に言われたことを思い返すだけで情けなさがこみ上げて、振り向かずに総務部に駆け込む。

 昼食を食べそびれてしまったが、どうせ食欲なんてどこかにいってしまった。

 午後の仕事も集中しきれず、六時になるとすぐにオフィスを飛び出し、彩香と待ち合わせをしている居酒屋へ急いだ。
 
「悔しい! 豊原さんに散々けなされたのに、何も言い返せなかった! 自分が情けない」

 カシスソーダをジョッキで飲み干した千咲は、昼間の衝撃的な出来事を、酔いに任せて彩香に語った。

 祖母から『陰口は言ってはいけないよ』と育てられ、その教えを守ってきたが、ひとりで抱えるのは無理だった。

 それくらい彩香の厳しい言葉が胸に突き刺さっている。

「なにそれ! どうして豊原さんがしゃしゃり出てくるの?」
「彼と幼馴染で、家族からも認められてるからだって。婚約の話も出てたみたい。強気の発言をするのは、それなりの理由があるんだよ」

 千咲は空になったジョッキを机の端に移動し、お代わりを注文する。今度はカシスオレンジを頼んだ。すぐに届いたそれをごくごく飲む。

「大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」
「今日は飲みたい気分だから」

 と言っても、千咲はアルコールに強い耐性があり、何もかも忘れるほど酔いつぶれるようなことはない。多少気が大きくなる程度だがストレス解消にはなる。

「まあ気持ちは分かるけど。でもさ、冷静に考えると、豊原さんが言ったことが本当とは限らないよね」
「そうだけど、完全な嘘とも思えない。私は彼の親族と顔合わせしていないし、家柄が合わないのは事実だから」

 思い当たることがあるからこそ、凛華の話が堪えるのだ。

「そこは本当だとしても、豊原さんが水無瀬社長のフィアンセだったって話は怪しいよね。本当ならとっくに婚約くらいはしてそうじゃない?」
「そうかな? 自信に溢れてたけど」
「はったりだよ。だって、彼女も社長を狙ってベストマリアージュに登録してたんだよ。もし付き合ってたらそんなことする必要ないじゃない」
「たしかに!」

 彩香が言う通りだ。澄春が凛華と関係があったら、いくら会社の宣伝の為とはいえ、マッチングサービスに登録するわけがない。
(澄春さんはそんな不誠実な人じゃない」
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