第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 切なげな声と共に、キスをされると思った。反射的に体を起こそうとしたが、シートベルトが邪魔をして身動きが取れない。

 千咲はシートに縫い付けられたかのように、身動きせず無力に澄春を見つめていた。

「澄春さん……」
「……好きだ」

 その言葉と共に、唇を塞がれた。

「ん……」

 ひんやりとした感覚に体が震える。

 澄春は何度も優しいキスを繰り返す。唇も体も段々熱を持ち、千咲の体の力が抜けていく。

 胸の中は彼の愛しさでいっぱいで、他には何も考えられなかった。

 しばらくすると澄春は体を起こした。

 千咲はぼんやりしたまま、彼の整った横画を見つめていた。

 凛々しい眉に高い鼻梁、薄い唇に千咲は目を奪われた。

 つい先ほどまで彼とキスをしていたなんて、信じられない。

 何よりこの急展開に頭がついていかない。

 クールな彼が千咲に愛を告げて、何度もキスをして……思い出すだけで胸が締め付けられた。

 レジデンスの部屋に戻ると、澄春は待ちきれないように千咲を抱きしめた。

 息もできないくらい激しいキスに、千咲は喘いだ。

「んっ……澄春さん、待って!」

 息を継ぐ間に必死に彼を止める。けれど彼は止まらない。

「待てない」

 無欲にすら感じる澄んだ彼の瞳が、今は男の欲に染まっている。

 千咲は彼の腕の中ですっかり力を失くしてしまった。

「誰にも渡さない。千咲は俺だけのものだ」

 澄春の情熱に、千咲は圧倒されて息も絶え絶えになっていた。

「……私も澄春さんが好き。ずっと側にいてね」

 今この瞬間、千咲は胸に燻る不安を忘れていた。

 完璧な相性も今はどうでもいい。ただ彼を愛しく感じる。

 穏やかだったふたりの間に生まれた激情に流されて、その夜千咲は澄春に身を任せた。



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