第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
五章 悪意
澄春と結ばれた翌朝。千咲は澄春の腕の中で目を覚ました。
抱き合ったまま眠りに落ちたため、お互い何も身に付けていない。
あまりの親密さに、慣れない千咲は逃げ出したくなるような気恥しさを感じた。
もぞもぞしていると、澄春の囁き声がした。
「おはよう」
声に釣られて顔を上げると、端整な澄春の顔が目の前にあった。胸が締め付けられるようなときめきを感じ、千咲はぎゅっと目を瞑った。
「おはよう」
照れる千咲の額に、澄春がキスをする。
額から頬に唇が移り、耳元に。昨夜の行為が思い浮かぶような甘い空気が漂い始めた。
唇を重ねて、深く求め合う。
「んっ……」
こみ上げる陶酔感に、何も考えられなくなった。
(澄春さん……このままでいられたら……)
甘美な感覚に酔いしれ、他のことはもうどうでもいいとすら思う。
「千咲……今日は一日こうしていようか?」
澄春までが、そんなことを言い出した。
「そうしたいけど、仕事に行かなくちゃ」
「……行きたくない」
澄春がふてくされたように言い、千咲を抱きしめる。
そんな子供っぽい態度にも胸がときめく。
澄春と抱き合い幸せを感じていると、あっという間に時間が過ぎていく。
結局ベッドから出たのは、ふたりとも遅刻ギリギリの時間になってしまった。
幸い道路が空いていたため、いつも通りの時間に会社に着いた。
千咲はコーヒーショップでカフェラテを買う為、地下駐車場から一階に向かうことにした。
澄春とエレベーターの前で別れて、千咲は階段を使うことにした。
コツコツとヒールの音が、人気のない室内階段に響く。そのとき背後で鉄の扉が開く音がした。他にも階段を利用する人がいるのだろう。
千咲はそう思って油断していたため、突然腕を引っ張られたとき、何の抵抗もできなかった。
どんと壁に背中から叩きつけられて、一瞬息が出来なくなった。
(痛い……)
何が起きたのか把握する前に、聞き覚えのある声がする。
「お前、社長になんか吹き込んだだろ!」