第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 社長室に入る直前まで無理だという気持ちが強かったのに、少し話しただけで考えが揺らいでしまった。

 澄春が思っていたよりも根気よく、千咲の話を聞いてくれたからだろうか。

 結婚動機など、本当のことを言えたことで気が楽になったのもあるかもしれない。どんな形でも結婚する相手には、正直でいたいと思うから。

 あれこれ考えている間に澄春は交渉は終わったとでもいうように、ソファから腰を上げようとしていた。

 千咲は慌てて口を開く。

「あ、あの、結婚するうえで、ひとつお願いしたいことがあります!」

 これだけは言っておかなくてはいけないと、千咲は澄春を必死に見つめた。

「お願い?」

 澄春の表情が初めて変化した。

(私が条件を出すなんて、厚かましいと感じたのかな?)

「入院中の祖母のところに、一緒に結婚の報告に行っていただけないでしょうか。そして祖母の前では仲良いふりをしてほしいんです……普通の夫婦のように」

 多忙な社長にこんなお願い事をしていいのだろうかと怖気づきそうになりながらも、なんとか伝えた要求の返事を、千咲は緊張しながら待つ。

「わかった」

(え、そんな簡単に引き受けてくれるの?)

 躊躇いなく帰ってきた返事に、千咲は拍子抜けした。
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