第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 五分後、千咲はようやく大きなトマトを四個選び満足そうにかごに入れた。

「ずいぶん、拘りがあるんだな」
「あ、すみません。待たせてしまいましたね」

 千咲は慌てて謝罪をしている。

(ということはやっぱり俺の存在を忘れていたのか。すごい集中力だな)

「大して待ってない。ところで野菜の選び方に詳しいのか?」
「おばあちゃんに美味しい野菜の見分け方を教ったんです。そういう生活の知恵のようなことを沢山聞きました」
「おばあさまと、本当に仲がいいんだな」
「そうですね。七歳の頃からずっと一緒に暮らしていたんで。私を育ててくれた大切な人です」
「そうか……」

 千咲の表情からどれだけ祖母を大切にしているのかが窺えた。

 それなら、祖母によくすれば彼女は満足するのだろうか。

 先日、以前千咲が言っていた高名な心臓外科の前島医師と、コンタクトを取ることができたところだ。

 伝手を使いかなりの労力を割いたが、これも夫としての義務だ。

 あくまで責任感からの行動でしかなかったが、今、千咲が喜ぶかもしれないと思うと、積極的な気持ちになった。

(早く、交渉をまとめないとな)

 澄春が仕事以外でこんな気持ちになるのは珍しい。

 自分の妻だと意識しているからだろうか。彼女の願いを叶えたい。満足させたい。そんなふうに思うようになっていた。
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