第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 毎朝のことだが、今日はいつもと違う光景を目にした。

 コーヒーショップを出てすぐのところで、中年の女性がしゃがみ込んでいた。

 出社時間が迫り急いでいるからなのか、皆が彼女を避けて足早に通り過ぎていく。誰も声をかける様子はない。

 千咲も時間に余裕があるわけではないから躊躇ったが、放っておくことが出来ず女性に近づき声をかけた。

「大丈夫ですか?」

 女性がゆっくり顔を上げる。相当具合が悪そうだ。

「ええ……急に目眩がして」
「目眩? あの、上の階に病院があります。よかったらお連れしますよ?」

 このオフィスビルには、アローフォワードのような一般企業だけでなく、法律事務所や医院も入居している。

 女性は力なく首を横に振った。

「大丈夫。友人と待ち合わせをしているから、もうすぐ来ると思うの」
「……ではその方が来るまで、付き添いますね」

 女性の顔色は血の気がなく今にもまた倒れそうで、放っておけなかった。

 千咲は彼女を支えて、他の人の出入りを邪魔しないように少し移動した。

 女性は苦し気な中、表情をやわらげた。

「ありがとう。でもあなたも行って。仕事に遅刻してしまうわ」
「気にしないでください。まだ時間がありますから」
「……あなたはとても優しい人ね」

 千咲は慌てて首を振った。
< 50 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop