第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
「そんなことないですよ」

 ただ、今回のような場に居合わせると見過ごせないだけだ。

 幼い頃、祖父母は困っている人を見過ごしてはいけない、善行はいつか自分に帰ってくるものだからと千咲に教えた。

 当時の千咲は、よいことをしたら、両親が帰って来てくれると思い込み、一生懸命人助けをしようとしたものだ。

 その後いくら何をしても両親は戻らないと理解し、千咲自身も成長して余計なお節介はしないように心掛けているつもりだが、目の前のトラブルをスルーするほどドライにはなれない。

 それから五分ほどで女性の友人が現れた。

「田中さん、どうしたの?」

 友人が驚きの声を上げる。口を開くのも辛そうな女性に代わって、千咲が説明をした。

「目眩で立っていられなくなったそうです。顔色が悪いままなので、病院に行った方がいいかもしれません」
「あなたは?」

 友人はようやく千咲の存在に気づいたようで、戸惑いの表情になった。

「心配して付き添ってくれていたのよ」

 女性の言葉を聞き、友人が感心したような声を上げる。

「そうだったんですね。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、お気になさらないでください。では私はこれで失礼しますね」
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