第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
「そうだよ。澄春くんはちーちゃんに喜んでほしいの。その気持ちをちゃんと受け取らないとだめよ」

 祖母が千咲の手を取り、諭すように言った。

 面会時間終了になり病院を出てからも、千咲の頭の中は疑問でいっぱいだった。

(澄春さんが私のために苦労しただなんて……本当なのかな?)

 彼は普通の夫婦として夫の責任を果たすつもりだと言っていたけれど、祖母に対する献身は、ただの義務の域を超えているように感じる。

(もしおばあちゃんが言っていた通りなら……嬉しいな)

 千咲は澄春と夫婦として暮らしながらも、かなりの遠慮があった。どうしても婚活アプリで選ばれただけの、愛がない関係という意識があったからだ。

 元々の社長と一社員という格差もあり、距離を詰められずにいた。

 彼に対する好意を感じることがあっても、深みにはまらないようにと、自分を戒めていた。

(でも……もっと近づいていいのかな?)

 澄春が心が尽くしてくれるのなら、千咲も素直に答えたい。

 常に感じていた迷いが晴れていくような、清々しさを感じた。

 とても前向きな気持ちになっている。

 今夜、彼が帰ってくるのが楽しみだった。
 
 ***

 結婚して半月が経ったある日。 

 澄春が執務室で正樹と簡単な打ち合わせをしていると、豊原凛華がアポイントなしでやって来た。

「社内テストのデータが纏まったわ」

 凛華が正樹の隣に並び立った。遠慮がないのはこの場の三人が旧知の仲だからだ。

「結果は?」

 正樹が自分のタブレットで、凛華から送られたデータを呼び出しながら尋ねる。

「予期しないエラーの報告はないわね。アンケートの回答では実際付き合い始めた人もいるみたい。相性評価には信憑性があるという意見が多いわ。私個人としてもそう思う」

 凛華が含みのある目で澄春を見た。

 そんな凛華に正樹が尋ねる。

「そう言えば凛華も登録したんだよな。社内に好相性の相手はいたのか?」
「ええ、90%の人がいたの」

 自信に溢れる笑みを浮かべる凛華に、正樹が食いつく。

「誰だ? ここだけの話にするから教えろ」
「正樹なら予想できるんじゃない?」

 含みのある返事に、正樹は眉を顰める。

 澄春はタブレットのデータから視線を上げて凛華を見た。すると彼女の期待に満ちた目と視線が重なる。
 彼女は赤い唇をゆっくり開いた。

「私と相性がいいのは、澄春よ」

 その瞬間、社長室が沈黙に包まれた。
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