第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 余程気になっているのか、ぐいぐい近寄り、千咲の手を掴んで来そうな勢いだ。

「いえ、会社では旧姓を使用するつもりです」
「楠木さん、異動はするの? 秘書室なら仕儀とでも社長と一緒にいられるよね?」
「引き続き総務部で頑張ります」

 千咲は愛想笑いを浮かべて返事をしながら、自分の席を目指す。

 出入口から見てフロアの左端奥。複合プリンタの前が千咲の席だが、いつも以上に距離を感じる。

「千咲さんおはようございます!」

 隣の席の、クールな後輩社員までもが、常とは違うテンションだ。

「おはよう」
「今日社長と一緒に出勤してましたよね? エレベーターで見かけましたよ。仲良くて羨ましい。相性抜群なだけありますよね」
「あはは……ありがとう」

 皆が自社の社長の結婚に興味津々だ。

(でも思ったより好意的に受け止めてもらっているかも)

 千咲は改めてフロアを見渡した。

 明らかにこちらを気にしているが、悪意のようなものは感じない。

 澄春に遠慮をしているのか、または自社が自信をもってリリースする製品による結婚だから、批判し辛いのだろうか。

 どちらにしても、千咲にとっては都合がよい反応だ。

(めちゃくちゃ文句を言われるかもしれないって覚悟してたけど、大丈夫そう)
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