第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 尊敬の目を澄春に向けていると、ふと男性客の視線が千咲に向いていることに気が付いた。何かを語りかけている。千咲は一気に緊張した。

(どうしよう。普通に日本語で挨拶すればいいのかな? それとも通じるか分からないけど英語の方がいい?)

 迷い慌てていると、腰をぐっと引き寄せられた。

 千咲は思わず漏れそうになった悲鳴を飲み込む。驚きに顔を上げると、澄春が柔らかな目で千咲を見下ろしていた。

 彼は千咲を更に密着するほど自分の体に引き寄せて、男性客に何かを言う。すると相手はぱっと顔を輝かせた。どういう会話がなされているのかは不明だが、喜んでくれたようだ。

 よく理解できないながらも、この場を誤魔化せたようだ。

 千咲は空気を読んで愛想笑いをしたが、心臓がばくばくと音を立てていた。

 澄春に慣れてきたとはいえ、スキンシップは先ほどの手繋ぎは初め。これほど接近するのは初めてだ。

 細身だと思っていたのに、こうして直に感じると澄春の体は固く引き締まっている。

(男の人って感じがする)

 仄かなシダーウッドの香りが鼻をさらう。お互いの香りが移るほどの親密な距離に、千咲の鼓動はますます高鳴った。

 人前でくっつきすぎではないかと恥ずかしくなったが、周囲の人々はむしろ楽しんでいるように見える。
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