恋煩いの処方箋
ゆっくりと大和の顔が近づいてくる。私は自然に瞼を閉じる。唇が触れる。一度離れて見つめ合って、またキスをする。今度は少し長く。じんわりと体温が混じり合う。七年ぶりのキスに、忘れていた感情が蘇ってくる。
「……亜子。ごめん俺……仕事戻るわ」
 どこかそわそわしながら大和は立ち上がる。
「うん、わかった」
私も立ち上がり、玄関まで見送る。
「仕事終わったらまた来ていい?」
「もちろん。のんと待ってる」
 閉まりかけのドアがまた開く。大和は「忘れもの」と私の額にキスをする。離れ難くなってしまったのは大和も同じらしい。
「最後にするから」と言いながら、両手で私の頬を包み唇を深く合わせてくる。舌を滑り込ませて愛おしむように口内を撫でる。そうされると、甘い吐息が漏れてしまう。
「大和……」
囁くように名前をよぶと彼の手が背中から腰の下まで下りてくる。シャツの裾から手が忍び込ませて肌に直に触れる。
その時、ズボンのポケットからクラシック音楽が聞こえてきた。大和は赤いストラップがついたスマホを引っ張り出す。
「……病院からだ。ごめん、また夜に!」
パタンとドアが閉まる。甘い余韻だけ残して大和は仕事へと戻っていく。
「……あ」
ひとりになり、聞き忘れたことに気付いた。雰囲気に流されてキスまでしてしまった。でもだからこそちゃんと確かめなければいけない。島津沙耶香さんのことを。

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