恋煩いの処方箋
「付き合ってたり、しないよね?」
大和は黙ってしまった。その沈黙が答えなのだろうか。
「……たしかに昔、付き合っていた。でも、三年も前に別れてる。だから今はただの同僚だよ」
言葉を選ぶように、大和は言った。
「でもどうして亜子がそのことを知ってるの?」
「知り合いが、大和の病院の看護師さんしてて……」
杉崎さんの事は言わなかった。なんとなく、大和の心象が悪くなるような気がして。
「俺たち、噂になってるってこと? しかも地元のネットワーク怖っ」
おどけたように大和は言う。でも、顔は笑ってない。
「探りを入れたんじゃないよ」
「わかってるよ。亜子はそんな事する子じゃない。その友達も善意でつたえてくれたんだろうし」
チクリと心が痛んだ。ホームページで検索して名前を調べたのは私だ。それで勝手にもう会わないと決めた。
「亜子、不安にさせてごめん。俺はどうしたら安心させられる?」
大和の真剣さが伝わってくる。それだけでもう充分だった。
「もう大丈夫だよ、大和に恋人がいないって分かったから」
「大丈夫なわけない」大和は呟くように言って小さく首を横に振る。それから私の両手をしっかりと握る。温かい大きな手。そうされるだけで安心できる。
「結婚しよう。なるべく早く。俺は亜子とのんちゃんと家族になりたい。もう二度と離したくないんだ。これまでの分も必ず幸せにするって誓うよ」
この言葉を何度も夢見ていた。でも叶うことなどないからと自分に言い聞かせて諦めて、でもどこか期待していた。
「……うれしい。夢みたい」
「夢じゃない、夢で終わらせたりしない! でものんちゃんは俺のこと、父親として認めてくれるかな?」
少し自信無さげに大和は言う。懐いているとは言え、さすがに自分の父親だとまでは思っていないだろう。
「実はね、父親の話題はずっと避けてきたの。のんも聞いて来なかったから話してなくて……でもちゃんと話せば理解できると思う。だって、和花は大和の子だもん」
血を分けた親子だ。私以上に分かり合える何かがあるはずだ。
「俺からのんちゃんに話してもいい?」
「うん、もちろん。いつ話すの?」
「そうだな、次の休みにどこか出かけない? 動物とか遊園地とか、のんちゃんが行きたいところ。一日中過ごすことなかったし」
「いいね、のんに聞いてみる」
きっと大喜びでひとつに絞れないだろうけれど。
「わかったら連絡もらえる?」
「うん、する」
頷くと私の頬に大和はそっと触れ、そのまま上を向かせる。近距離で大和と視線が合う。
「亜子ともたくさんデートしたいな。恋人らしいことしてあげられなかったから、これからたくさんいろいろなことしような」
「うれし……ンッ」
言葉を飲み込むように唇が合わさる。ゆっくりと目を閉じると、合図のように体を押し倒される。大和の重みが全身にかかる。額、瞼、耳、首筋、鎖骨、順番にキスをしてまた唇に触れる。舌で割り入って、私の舌を絡めて、擦り合わせたり、気弱をつけて食むように吸われたり。体の芯がじんわりと熱を帯びてくる。まるで口だけでシテるみたいで、ずっと忘れていた感覚が蘇ってくる。