恋煩いの処方箋

「亜子がイヤならやめるよ?」
「……違うの。久しぶりで、その……」
 喜びの中に時折不安が顔を覗かせてくる。だけど、止めて欲しいなんて思わない。
「そっか、わかった。もっと優しくするから、力抜いて俺のことだけ考えていて」
 充分すぎるくらい、優しさは感じている。これ以上甘やかされたら幸せすぎて泣いてしまう。
「亜子、泣いてる?」
 瞳の奥に不安を滲ませた大和が聞く。
「うれしくて……私、大和が大好きだから」
 大和の首に手を回して引き寄せて自分からキスをする。それに応えるように舌が割り入ってくる。まるで口内を愛撫でもするようにねっとりと舐められて気持ちよさにボーッとする。
どこで覚えてきたのだろう、なんて邪推してしまいそうになるくらい、昔したキスよりうんと大人で、私の心と体を翻弄する。
 その間も彼の手は休まない。私の感じる場所を丁寧に探り当てていく。二人で抱き合っているからか、汗が滲んでくる。
おもむろに着ていたシャツのボタンを外して脱ぎ捨てる。細身の体なのに腹筋はうっすらと割れている。二の腕もがっしりとしている。
救急科の仕事は体力勝負なのだというが、大和の体を見て納得させられる。
「亜子のも脱がしてあげる」
 ころりとうつ伏せにされて、背中のファスナーを下ろされる。汗ばんでしまった背中にキスをしながら、パチンとブラジャーのホックを外す。胸元が解放されて落ち着かない。
「亜子のワンピース、シワになると困るよな」
 気付かなくてごめんと言いながら、するすると脱がせる。
「ちょっとまって。部屋の電気消してくれない?」
 間接照明に照らされた室内はわりと薄暗いのだけれど、それでもお互いの顔はハッキリと見えている。
「却下。暗くしたら亜子の顔が見えなくなるじゃん」
 そう言って、私の頬をそっと撫でる。じっと見つめられて嬉しさと戸惑いがせめぎ合う。
「見えなくていいんだよ、恥ずかしいし」
「恥ずかしがる亜子もかわいい」
「もう」
 プイと顔を背けると、首筋を甘噛みして舌で撫で上げる。痛みとは違う全身がびくんとする。「んんっ」と思わず声を漏らす。
「亜子の弱いところ見つけた」
 イタズラな笑みを浮かべる大和に幼い頃の面影を見つける。ずっと好きだった。初恋は実らないと聞いて落ち込んだこともあった。それでも彼を思う気持ちを諦めなくてよかったと思う。
ああ、やっぱり私も彼の顔をずっと見ていたいと思ってしまった。
それから私たちは長い年月を取り戻すかのように無心で体を重ねた。やがて、まるでひとつになるみたいに大和の体がぴたりと馴染んで、このまま溶けて混ざり合ってしまうのではないかとさえ思った。
 東の空が徐々に光を帯びるはじめた頃、私たちはようやく眠りに堕ちる。
あと数時間後には大和の両親との顔合わせだ。
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