恋煩いの処方箋
身支度を整えて軽く朝食を取り部屋に戻るとスマホの着信に気付く。父からだった。
「お義父さん、なんだって?」
「このホテルに来るって。だから、ラウンジの席を予約してきた」
十三時に実家へ行く約束だったが出掛ける予定ができたからとこのホテルのラウンジで会うことになった。
亜子は少し残念そうな顔をした。実家といっても、大学時代の六年間しか住んでいないので思い入れはほぼない。俺にとっての実家は間宮家の隣の有馬医院の母屋だから。
「時間まで買い物でも行こうか?」
空いてしまった三時間をホテル内で過ごすのは勿体ない。チェックアウトすると荷物を車に積んで、近くの商業施設へと向かう。
「東京って本当にすごいね。建物も人もみんなオシャレでさ。地元にないお店もたくさんあって……別世界って感じがする。私、大丈夫かな?浮いてない?」
顔に不安を滲ませて亜子が聞く。
「浮いてない。大丈夫! ちゃんと馴染んでるよ」
亜子は素材がいい。スタイルも姿勢もいいからシンプルなワンピースでも映える。見せびらかしたいくらいいい女だ。本人に自覚がないだけで。とはいえ、都会の人はそれほど他人に興味はない。いい意味でも悪い意味でも地元の方が人々の繋がりは濃い。
「だといいんだけど。本当にみんなオシャレでかっこいいね。これが日常だなんて信じられないよ。のんには色んなものを見せてあげたいな。もちろん地元もいいけどね」
亜子の言う通りだと思う。娘には沢山の経験をさせてあげたい。田舎も都会もそれぞれいいところがあって、それを知った上で選択するのがいい。
「次はのんちゃんも連れてこよう! 泊まりでテーマパークに行くのはどう?」
そう提案すると亜子が目を輝かせる。
「テーマパーク⁉︎ 行きたい! 私ももう何年も行けてなくて、いつかはのんも連れて行ってあげたいって思ってたの!」
長距離の移動が伴うし、ひとりで小さい子供を連れて行くのは難しかったんだろう。亜子には諦めてきたことが他にもありそうだ。これからは俺が叶えたいと思っている。
「いつにしようか? 夏休み?だと暑いかな?」
そんな話をしながら色んな店を見て回る。亜子の両親への土産を選び、和花には可愛らしい缶に入ったクッキーを買った。亜子も欲しがっていたので色違いで二つ。
約束の時間が近づき、俺たちはホテルのラウンジへと戻る。一杯目のコーヒーを飲み終える頃、父がやって来た。