恋煩いの処方箋
「仕事終わったんですか?」
「はい。でも、これから行くところがあって……」
言い淀む私を沙也香さんはじっと見る。
「お子さんのお迎えでしょ。のんちゃん、だっけ?」
大和は何をどこまで話したのだろう。この人は私に何を言いに来たのだろう。なんだかとても怖い。
「やだ、そんな顔しないで! 意地悪しにきたんじゃないから」
ほっとした拍子に「違うんですか?」と口に出てしまう。慌てて口元を押さえたが時すでに遅し。沙也香さんはポカンとした顔をして、プッと吹き出す。
「あはは、正直な人ね」
「すみません」
「いいのよ。話っていうのはね、私と大和のことよ。確かに付き合ってはいた。でも今はただの同僚としか思ってなくて恋愛感情は全くない。彼にも何度もそう言ってるのになかなか信じてくれなくて困ってるのよねー」
「……それが本当なら、大和の実家へ行ったのはどうしてですか?」
それは大和のご両親へのアピールではないのか。恋愛感情がないなんて言われてもにわかには信じ難い。
「有馬先生にお会いしたかったから。学会の帰りにお土産を渡しに伺ったの」
「有馬先生にですか?」
わざわざ別れた恋人の父親に会いにいくのだろうか。大和のことがもう好きではないのなら尚更意味がわからない。
「わからないかなーわからないよね。じゃあ、言うけど。私、有馬先生が好きなの」
ふふふと沙也香さんは笑う。可愛らしい少女の様に頬を染めている。
「……え? 好きって、どういう……」
予想だにしなかった返答に私の思考がついていかない。頭上にはたくさんのクエスチョンマークが並んでいるに違いない。
「あはは、あなた純粋なのね。純粋でお人好し。大和が好きになったの、分かるわ」
「待ってください! 有馬先生は既婚者ですよ?」
「知ってますよ。それでも好きなんだから仕方ないじゃない。片思いくらい自由にしたっていいでしょ? 好きって言ってもまあ、尊敬の方が強いのかなぁ。だからって家庭を壊すつもりはない。奥様のことも大好きよ」
好きになるのは仕方がない。それは理解できる。でも、有馬先生は大和の父親だ。