幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。

第48話

 壁にかかった無機質な色の時計に目をやると、早いもので利用時間の終わりが近づいていた。

(そろそろ、これも入れようかな……)

 なっちゃんへのリクエストを入れてから、こっそりと「ある曲」も追加で予約しておいた。

 彼が最後の一曲を歌い終えたあと。
 スピーカーから、聴き慣れたイントロが流れてきた。

 それに気づいたなっちゃんは、自分へのリクエストだと思ったのか「おい。次はめぐだろ?」と言う。

「うん。私が歌うの」と、マイクを手に取った。

 それは、文化祭のライブで彼が二曲目に歌った、あの切ないバラードだった。
 口ずさんだことは何度もあるけれど、すごく難しい曲だ。

(うまく歌えるかな……)

 少し不安になりつつも、あの日のなっちゃんの声を思い出しながら、一言一言、大切に、丁寧に歌った。

 彼は、私がこの前の打ち上げでそうしていたように、画面に表示される歌詞をじっと見つめている。
 何も言わず、私のつたない歌を真剣に聴き込んでくれていた。


 曲の終盤。二人の想いが通じ合う、サビの部分。

『どうしようもないくらい 悔しいくらい 好きだよ』

 目の前にいるなっちゃんへのありったけの気持ちを込めた。


 歌い終えるとラストの美しいピアノが流れ、「……ふうっ」と小さく息を吐く。
 私はモニターから目を外し、黙ったままの彼に向かって「へへ」と照れ隠しに笑った。

「……えーっと。なっちゃんほどはうまく歌えないけどね」

 すると――。

 彼は無言で立ち上がり、私の隣にドサッと座った。

「…………」

「……なっちゃん?」

 そう呼びかけると、目を伏せたまま、静かに口を開いた。


「……俺、まだめぐから『好き』って、言われてない」
< 101 / 121 >

この作品をシェア

pagetop