幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。【完結】
 ◇

 大通りの喧騒と、絶え間なく行き交う車のエンジン音がやけに大きく聞こえる。

 歩き出してから、僕たちの間にまだ会話はなかった。

 やがて角を曲がり、街灯の少ない一本内側の静かな道に入ったところで、めぐみが口を開いた。
「……なっちゃん、疲れてない? ずっと歌ってたし」
 気遣うような声に、僕は前を向いたまま答える。
「疲れてるよ。喉、やばい」
「なっちゃん、本当に上手だった。上手っていうか、惹き込まれるっていうか……」

 隣を歩くめぐみに目をやると、彼女はこちらを見ず、無色の街灯が落ちた薄暗いアスファルトの道路を見つめながらポツリポツリと話していた。

「ライブの時も、感動しすぎて身体がちっとも動かなくなって……。なんか、ノリ悪い観客になっちゃった」
 めぐみはそう言って小さく笑った。

「……へー」

(……そうなんだ。嬉しい)

 暗がりでだらしなく顔がにやけそうになるのを必死に我慢しながら、僕はわざとそっけなく返した。

「……あの二曲さ。嶋たちが、俺の希望優先して決めてくれたんだよ」
 僕が明かすと、めぐみは「えっ、そうなの!」と驚いたように顔を上げ、ようやくこちらを見てくれた。

「なんであの曲がよかったの?」

 僕はめぐみを顔をわざとじっと見つめ返した。

「……さあ。秘密」

 少しだけ意地悪くそう言うと、めぐみは僕の視線の意味と、曲の歌詞を重ねて何かを察したのか、「……っ」と小さく息を呑み、パッと目を逸らして前を向いた。

 その反応を見て、僕はまた舞い上がる。

 これまで、僕がどんなにアプローチを仕掛けても、『えっ、何が?』だの『そうなんだ〜ありがとう!』だのと、虚しいほど見事にスルーされ続けてきたのだ。
 だからこそ、僕の言葉の裏を読んで返事に詰まり、あからさまに動揺している今のその反応が、どうしようもなく嬉しくてたまらない。

 もっと、僕のことで困ればいい。
 僕のことで頭を抱えて、キャパオーバーになってほしい。
 そして早く、今の僕みたいに、「好き」と言わずにいられなくなってしまえばいい。

 初夏のぬるい夜風が、火照った頬を余計に熱くしていくように感じる。
 僕は、歩きながら彼女の側に少しだけ距離を寄せた。

「……イヤだったら言って」

 それだけ短く告げて、めぐみの左手を、僕の右手でそっと握りしめた。

「…………っ!」

 めぐみの肩が跳ね、握られた手のひらが驚いたようにピクッと震えた。

 振り払われるかもしれない。
 ギリギリの緊張感が走る。

 けれど、彼女は「イヤ」と言わない代わりに。
 繋いだ指先に、ほんのわずかな力を込めて、そっと握り返してくれた。

 完全に限界突破している心拍数を悟られないよう、僕はただ前だけを向いた。

 僕らはそのまま手をつないで、何も喋らないまま、初夏の夜道を二人で歩いて帰った。
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