幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。【完結】
 彼の両手が、私の顔に向かって伸びてくる。
 そして、その手が私の両頬を「むにゅっ」と外側に引っ張った。

「……へ!? なに!?」

 力は優しくて全然痛くはないけれど、こんな扱いを誰かにされたのは小学生以来だったので、シンプルに驚いて変な声が出た。

 私の顔を見てニヤニヤと笑っているなっちゃんに、(なに!? 今の私、変な顔ってこと!?)と焦りながら抗議する。

「……やきもち?」

 なっちゃんから、至近距離でからかうように聞かれる。

「……ちがっ……!」

 図星を突かれた私は、反射的に否定しようとする。

「いや。やきもちだろ、それ」

 再度、確信を持って言われた。

(あ、もうダメだ)

 顔が耳まで赤くなっているのが自分でもわかるし、これ以上、このなっちゃんに誤魔化し通せるわけがない。

 私は諦めて、小さく「……うん」と頷いて認めた。

 その瞬間――。

 腕に強い力を感じたかと思うと、私の身体がベンチからふわっと浮き上がった。

 気づいた時には、私はなっちゃんの大きな腕の中にすっぽりと包み込まれ、彼の広い胸に私の耳がぴたりと当たっていた。

 夏の暑さのせいか、なっちゃんの身体は、周りの空気よりもずっと熱い。
 そして、私の耳元で鳴る彼の鼓動が、とんでもなく速いスピードになっているのに気づいた。

「…………」

 驚きと恥ずかしさで何も言えなくて、私はただ、その熱い腕の中に閉じ込められたままでいた。
 彼の肩越しに、昔、二人で遊んだ象の滑り台が見える。


 しばらくの静寂の後。
 なっちゃんが、私の耳元で、そっと口を開いた。

「……付き合お」

 少し掠れた、ねだるような、甘えるような低い声。

 ステージでなっちゃんの歌声を聴いた時と同じように、頭の奥がクラクラと痺れて、彼に支えられていないと立っていられないくらいだった。

「…………うん」

 私はただ、その一言を絞り出した。

 倒れないように、なっちゃんに掴まりたくて、手元にあった彼の背中のTシャツの裾を、キュッと握った。
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