一夜の過ちのはずが政略結婚相手の社長に溺愛されています

2章 終わるはずの恋が、始まってしまった

その日は、朝から落ち着かなかった。

クローゼットの前で何度も悩んで、結局選んだのは、淡い色のワンピース。

派手すぎず、地味すぎず――“失礼のない”格好を意識したつもりだった。

鏡に映る自分は、どこか他人みたいに見える。

(本当に、結婚するんだ……)

まだ実感なんてないのに、現実だけが進んでいく。

深く息を吐いてから、私は会場へ向かった。

用意された個室には、すでに父が座っていた。

「遅いぞ」

「ごめんなさい……」

軽く頭を下げて、隣の席に座る。

緊張で、手のひらがじっとりと汗ばんでいるのが分かった。

「相手は少し遅れている」

父は時計を見ながら、淡々とそう言った。

「……そう」

それだけ返すのがやっとだった。

「取引先の社長だ。失礼のないようにな」
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